副業は絶対禁止なの?具体的な法律や揉めた時はどうすればいい?
「副業」というと、「会社に禁止されている」といったイメージをお持ちの方も多くいるかと思います。
2018年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、「モデル就業規則」から副業を禁止する規定が削除されました。
それに伴い現在では、副業OKとする会社や企業が増えてきています。とは言えまだまだ、就業規則により副業を禁止としている会社はあります。副業に興味があっても、会社の定められたルールを破って副業をするのは得策ではありません。
この記事では、副業禁止に関わる会社の規則や法律、従わなかった場合にどうなるのか、そもそもなぜ会社が副業を禁止するのか、といった内容に焦点を当てて詳しく解説しています。
この記事をよくお読みいただき、ご自身の身を守って副業をしていくのに役立てていただけると幸いです。
目次
副業禁止の法律はあるの?
勤めている会社の就業規則として副業が禁止されている場合、副業をしていることがばれれば懲戒処分の対象になる可能性があります。
では法律上はどうなのでしょうか。日本国憲法第22条には、以下のように記されています。
日本国憲法第22条
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
②何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
日本国憲法では職業選択の自由が規定されており、従業員は就業時間中はその業務に専念する義務がありますが、終業後のプライベートの時間をどのように過ごすかは個人の自由だという解釈ができます。
そのため、副業を禁止している会社で副業をした場合、会社の規則に則って罰則を受けたとしても、法律で処罰される可能性は低いと考えられます。
副業禁止に従わなかった場合はどうなる?
基本的にはクビにされない
副業禁止に従わなかった場合はどうなるのでしょうか。ポイントとなるのは会社の就業規則と法律との関係です。
まず会社の就業規則で副業が禁止されている場合、一般的にその内容としては、会社の許可なく他人に雇い入れられることを禁止し、その違反が懲戒事由となると定められています。
その一方で憲法では前述のとおり、職業選択の自由が定められているため、副業を一切禁止することはできないことになっています。そしてもうひとつ労働関係の法律においては、副業に関する規定は特にありません。
そのため法律上の見解としては、会社の就業時間は労務に従事する義務がありますが、就業時間外の余暇については自由に利用できるということになっており、副業禁止に従わなかったからといってすぐさまクビになることは基本的にはないでしょう。
ただし、ばれればもちろんトラブルになりますし、会社の就業規則の内容や副業の状況によっては懲戒(クビ)が妥当とされる場合もあるので注意が必要です。
クビになるケースは?
本業に影響が出る場合
ではクビになってしまうケースがどのようなものなのか、いくつか主な例を挙げていきます。
まずは当然ですが「本業に影響が出た場合」です。
例えば、「本業の業務時間中に副業をする」、「睡眠不足で本業の業務に集中できない」、「副業をしていることにより遅刻や欠勤が多い」など、副業をしていることが原因で本業に専念できず、業務を失念したり疎かになったり、支障を来すと判断された場合はクビになる可能性もあります。
同業他社で働いた場合
「副業がどの程度本業に影響を与えたか」という基準により、懲戒処分の内容は判断されますが、本業と副業のけじめをつけきれず、本業の会社に不利益をもたらした場合、雇用者側が責任を負う必要があるため、最悪の場合クビなどに繋がります。
同業他社で副業を行った場合や、副業で競合する可能性のある会社を設立するなどした場合も、クビ(懲戒処分、解雇)になる可能性があります。これらの行為は、本業である会社の利益を侵害することに繋がると判断されるからです。
会社に不利益があった場合
本業の業務に支障を来す、同業他社で副業をし本業の会社の利益を侵害する、といったことは会社に不利益をもたらすことの代表と言っても過言ではないですが、その他にも会社にとって不利益になると判断されることは数々あり、そのような判断をされた場合は懲戒処分の対象になる可能性があります。
例えば、故意ではなかったとしても、副業をした際に社内の情報を漏らしてしまった場合です。
社内の情報には、機密データや顧客情報、技術情報、仕事を効率的に進めるためのノウハウなどがあり、これらの情報が外部に漏れてしまうと、会社が損害を被る可能性があります。
公務員の副業は禁止?
もしあなたが公務員で、副業を検討している場合は事情が変わってくるため注意が必要です。
なぜなら日本国憲法では職業選択の自由が保証されていると前述しましたが、公務員の場合は国家公務員法や地方公務員法によって副業が禁止されているからです。
その理由としては、本業である公務に専念してもらうため、また公務によって得た情報が不当に利用されたり情報漏洩したりすることを防ぐためです。
公務員は職務を公正中立な立場で遂行することを求められており、副業をすることで特定の業界に利益を与えていると思われてしまうことは大きなマイナスになります。違反した場合は免職、減給などの処罰対象となることがあります。
しかし最近では、一定の条件のもとで公務員の副業が解禁されつつあります。
例えば、規模の小さい農林水産業、一定以下の規模の不動産賃貸業、預金や株式投資などの貯蓄・資産運用といったことであれば、許可が下りる可能性があります。
その他、地域によっては「地域貢献応援制度」という形で、基準を明確化した上で公務員の副業を一部認めている制度もあります。
公務員の副業が認められるためには、国家公務員の場合は内閣総理大臣及び所轄庁長の許可を得る、地方公務員の場合は任命権者の許可を得る、勤務先に相談して許可を得る、といったことが条件になります。
副業禁止でもめたら労働審判
ここまで紹介した内容をまとめると、会社で副業を禁止されていたとしても、憲法や労働関連の法律上では副業は禁止されていません。
しかし、副業をすることによって会社に損害や不利益を与えた場合には、会社から減給・降格などの懲戒処分、解雇されるといった処分を受ける可能性があります。
もし副業が発覚して会社ともめたらどうすればいいのか、重大な処罰を受けてしまうのか、不安に思われる方も多いと思います。何よりまずは会社と十分に話し合いましょう。話し合いによって解決できるのであればそれに越したことはありません。
しかし話し合いの末、どうしても解決できない場合には「労働審判」という方法が存在します。
労働審判は、労働審判法に基づき労働紛争を解決する手続きのことです。
平成18年4月から始まった比較的新しい制度ですが、原則として3回以内の期日で、両当事者から直接、自由に事情を聞いて、和解(金銭的解決)を目指す手続きです。
労働審判の申し込み方法
労働問題であれば、権利・利益の大小に関わらず労働審判を申し立てることができます。実際の手続きでは特に賃金関係と解雇関係の事件が主を占めています。
労働審判の申し込み方法でまずやることは、裁判所に申立書の作成・提出をすることです。正式には「労働審判手続申立書」と言います。申し立ては書面でしなければなりません。
申立書を提出すると、裁判所から1回目の審理期日が指定されます。会社はその日までに裁判所へ答弁書を提出する決まりとなっています。審理では当事者間の調停をメインに行います。
労働審判の調停により確定した結論は、通常の裁判における和解と同様の効力を持つため、強制執行が可能になるものです。
申し込みへの必要物
労働審判の申し立てに必要なものは以下のとおりです。
- 労働審判手続申立書(裁判所用1通(正本)、相手方用1通、労働審判員用2通の計4通)
- 雇入れ通知書
- 給与明細書
- 解雇通知書、解雇理由証明書などの証拠文書の写し(コピー)
- 勤務態度が記されたもの(人事評価表など)
- 手数料数千~1万円程度
これらの書類を裁判所に提出します。収入印紙や郵券が必要になります。収入印紙は請求金額によって、郵券は申し込みをする裁判所によって変動があります。
裁判所は原則として、申し立てをする会社の本店所在地になります。
しかし本社が他県にあるなどの場合は、勤務地を管轄とする裁判所で審理を行うなど、労働者側にかなり融通を利かせてくれます。
副業を禁止にする会社が多いのはなぜ?
他社へ雇用される危険性
働き方改革もあり徐々に副業解禁されつつありますが、未だに副業を禁止にしている会社も数多くあります。
なぜ副業を禁止にする会社が多いのか、その理由として企業が最も懸念しているのは他社に雇用されることそのものの危険性です。従業員が自社以外の会社と雇用契約を結ぶことで、人事の管理上さまざまな問題が発生することを危惧しています。
また、自社のノウハウや情報漏洩についての懸念もあるようで、わざわざ他社で働かずとも、他の方法でキャリアの形成や知識の習得はできるので自社の業務に専念してほしいといった声も多く聞きます。
副業禁止と言えど、会社によっては全面的禁止というわけではなく、許可を得れば可能であったり、条件や仕事の内容によっては幅広く許容していたりするようなので、一度確認してみると良いでしょう。
長時間労働の助長
会社が副業を禁止する理由として、長時間労働を助長するということも挙げられています。
副業は当然、本業の時間外に行われます。一つの会社の業務に全力投球を要求し、副業でも全力投球を要求されると、疲労の蓄積や長時間労働になるのは確実なのではないかと指摘されています。
また長時間労働だけでなく、副業・兼業をすることによって社員の過重労働も助長される、労働時間の管理・把握が困難になるといった意見があります。
A社とB社で働いた時間は通算され、法定労働時間の1日8時間、週40時間を超えると残業代を支払う必要があります。
労働基準法38条には「労働時間は、事業場を異にする場合においては、労働時間に関する規定の適用については通算する」と指定しています。
労働時間の通算の制約を設けると、休憩時間の取り方や営業接待中の時間、出張中の移動時間のカウントの仕方など、会社によってはさまざまな時間管理上の見直しが必要になってきます。
労働災害が起こる可能性
働いているからには、労働災害が起こる可能性もないとは限りません。
本業と副業の二つがあることにより、例えば労働時間の問題や健康管理上の問題など、なにかの問題が生じた際に、本業と副業どちらの業務が根本的な原因になっているかの判断がつきにくくなり、責任の所在がわからなくなるといったことが考えられます。
無理をして副業に取り組んだ結果、問題が生じているのにも関わらず、本業のせいにされてしまう可能性が少なからずあり、企業の中にはそういった事態を恐れて副業を認めていないということもあります。
厚労省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aには、「個別事業場ごとの業務に着目し、その業務に内在する危険性が現実化して労働災害が起きた場合に、保険給付を行うこととしていることから、副業・兼業している場合であっても、それぞれの就業先における労働時間は合算せず、個々の事業場ごとに業務の過重性を評価しています」との記載があります。
これはつまり、もし2社の時間外労働時間が80時間を超えて過労死しても、労災認定を受けられないということであり、働く本人にも残された遺族にとっても良くないことだと言えます。
副業禁止のまとめ
これまでまとめてきたとおり、会社の就業規則により副業禁止とされている理由としては、本業に集中できなくなることや長時間労働・過重労働になる可能性があるといったことがありますが、これらは会社にとっての不利益になるだけでなく、自分にとってもあまり良い影響を与えません。
禁止されているにも関わらず規定を破って副業をすると、懲戒処分になったり裁判沙汰になったりといった可能性もあり、それらもあまり良いものとは言えないでしょう。
日本国憲法や労働関係の法律においては副業は禁止されておらず、職業選択の自由が保証されていますが、内緒にして副業をするのは得策とは言えません。
会社によっては完全に副業禁止ではなく、就業規則や一定の条件に従えば許される場合もあります。本業の会社とよく相談をして、無理なく、本業への支障を来さない程度に副業をされることをおすすめします。